『のーぞみっ』
不意に背中から名前を呼ばれたので驚いて振り向いたら
母がニコニコしながら胸の前でヒラヒラと手を振って見せる。
持ってきてくれた洗濯物を部屋のベッドに置くと私のいるベランダに出てきた。
『こんな所でどうしたの? 七月と言っても夜風はまだ冷たいわよ? 部屋に入りなさい。』
つとめて優しく言うと、私の持っていた短冊に気が付いた。
『あら?飾らないの?』
『ううん。飾るよ…でも、まだ何も書いてないんだぁ。』
へらっと笑いながら短冊を見せる。
今日は七夕。
一年に一度、織姫と彦星が逢える大切な日。
短冊に願い事を書いて、笹に飾る日。
昔は願いの糸を垂らしたんだってココに聞いたことがあったっけ……。
うちも毎年近くのお宅から笹を頂いて七夕祭りを楽しんでいる。
去年の願い事は【ココの夢が叶います様に。】だった。
それまでは、素敵な人に逢えます様にとか、勉強がもっとできるようになります様にとか、
願い事が多くて書くことに困ったことはなかった…
けれど今年は何故か筆が進まず未だに白紙を手に持っていた。
願い事は1つ。決まっている。
でも…
ごちゃごちゃ考えるのは苦手だし、気分転換も兼ねてベランダで頭を冷やしながら
星空をぼーっと眺めていたら母が声をかけてくれたという訳だ。
『のぞみがまだ書いてないなんて珍しいわね?』
『そーかな?』
『そーよぉ。雪でも降るんじゃないかしら…ね?』
イタズラにわらって見せる母。
『何それひどーい!』
『うふふっ。冗談冗談。』
母は柔らかく笑うと私の頭を撫でてくれた。
『先生になれます様に~とか書くのかなぁって思ってたのに、違うみたいね。』
『…先生になる夢は星に願う事じゃないもん。
自分の力で叶えたいから…短冊には書かないよ。』
あまりにもキッパリと言ってのけたので母は少し呆気にとられた顔をした。
でも、すぐにふんわりと微笑んでぎゅっと抱きしめてくれる。
優しくて甘い香りがしてふわふわと心が温かくなった。
『大きくなったわね……。』
ゆっくりと背中を撫でてくれる手が何だかくすぐったい。
安心できる場所が心地良くてついつい色々話したくなってしまったけど
ぐっと堪えて背中にまわした手に力を込めた。
胸に顔をうずめて言葉で言えない代わりに心の中で話しかける。
プリキュアやっていろいろな事があって、私、沢山の思いと想いをもらったの。
叶えたい思いは人や物に願うのではなくて自分でつかまえなきゃダメなんだって教えてもらったの。
だから、大切な人も沢山増えたし自分の夢も見つけることが出来た。
そんな大切な夢、星に願いをかけるのはもったいないもん。
だけどね…
1つだけ どうしても叶えたくて、だけど叶えられない夢があるの。
『…のぞみ?』
ぎゅっと力を入れていたからか、母に心配そうに名前を呼ばれた。
『……。』
答えない私の背中をぽんぽんと叩くとまたぎゅっと抱きしめる。
『大丈夫。大丈夫。きっとその願い事叶うわよ。』
希望の言葉を言ってくれる。いつだって暖かい羽根で包み込んでくれる。
その優しさが胸にしみて苦しい。
『駄目なの。その願いは我儘でしかないの。我慢しなきゃいけないの。』
『しょうがない子ね…。何でそんなに早く大人になろうとするの?
あなたはまだまだ子供なんだからもっと甘えたって良いじゃない。
甘えて甘えて少しずつ大人になって行けば良いのよ。』
優しい言葉に目頭が熱くなるのを感じた。
頭の端の方で硬く蓋をしていたはずの心の栓が勢いよく外れる音がした。
『だって…叶わないもん…叶ったら嬉しいけど…幸せだけど…
でもっ…叶ったら誰かが寂しい思いをするもんっ……。
私…誰かが悲しい顔になるくらいなら我慢しようって…
でもっ…やっぱり諦められっ…なくて…っ…』
ダメ。泣いたらだめなの…ダメなのに……っ。
止め処なく涙が溢れる。
きっと母には何のコトなのかわからないのに言葉が止まらない。
『うっ…っ…私っ…我慢しなくちゃっ…いけないのに…っ
いつでも笑顔で…傍に居たいのにっ…泣いちゃダメなのにっ…願っちゃダメなのにっ…』
嗚咽が漏れる。息が思うようにつけない…何を言っているかもわからなくなっていく。
そんな私を見ながら、母は暫く黙って背中をさすってくれた。
『ねぇ、のぞみ。前に綺麗な花を咲かせたいって言ってたわよね。』
落ち着きを取り戻した私にゆっくりと語りかけてくれる。
『でもね、お花だって焦ってお水や肥料を沢山あげ過ぎたら枯れてしまうでしょう?
先に咲き始めたお花にあわせなくったって良いのよ?
生け花だってわざと長さを変えて其々のお花の良さを出す位だもの
のぞみも自分の高さで輝けば良いんじゃないのかしら。』
そこまで言うとすっと離れて
『のぞみの好きな先輩だってのぞみの我儘くらい可愛いって思ってくれるわよぉ!』
顔を覗き込まれた。
『―――――っ!!! 何でっ!? 好きなってっ!! えっ!?』
一気に涙が引っ込んだ。
嬉しそうに笑う母に何か言い返したいのに口がパクパクしてうまく話せない。
『へぇ~そっかそっかぁ…のぞみもそんなお年頃になったのねぇ…
ねね? どんな男の子なの?? かっこいい子??』
『ちょっとお母ーさん!!!! からかわないでよぉ!!!!!』
ぷーっとむくれる私を見ながらくすくす笑うと一言ごめん。と言って舌を見せた。
『願い事…両思いになりたいとかそう言うのとは違うっぽいし
何でそんなに難しく考えてるのかわからないけど、よっぽど大切な人なのね…
このままお嫁に行っちゃったらどうしようかしらね。うふふ。』
『やっぱりお嫁に行っちゃったら寂しい?』
『そりゃそうよ。ずっと一緒に生きてきた大事な娘がお嫁に出たら寂しいわよ。』
『じゃあ、私お嫁になんか行かないよ!! ずっとお母さんの傍にいる!!』
『バカね。それじゃあもっと寂しいでしょう??』
『え? なんで?? 一緒だと駄目なの???』
『駄目なの。』
母の答えは一刀両断だった。
私のたった1つの願い事は、母を悲しませる事しかできないと思っていたから。
少し困惑する…どうして駄目なの??
『お相手がいないと言うなら話は別だけど
本当に一生を共にしたい人がのぞみに出来たのなら
その人と一緒に居てくれる方がお母さんは幸せだわ。
例えば、外国の人で一生逢えなくなるとしても
のぞみが幸せだって自信を持っていえる相手なんだったら
お母さんも幸せだわ。勿論お父さんもね。
どんな相手を好きになってもその時の気持ち、大切にしなさい。』
『お母さん…』
『って言っても将来の話よ?? まだ早いですからね!!!』
『わっ! わかってるもん!!!』
『ほらっ、さっさと書いちゃいなさいよ。
恋愛は誰かが切ない思いをするものよ。気にしちゃダメダメ。』
トントン。背中を叩かれて元気をもらう。
母はやっぱり楽しそうに笑いながら私におやすみ。と一言言って部屋を出た。
私は意を決してたった1つの願い事を
短冊にしたためた。
Fin
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さて、何から話そうかwww
お友達っぽい親子って何か憧れる。
のぞみのたった1つの願い事はあえて書いてませんが
わかりますよね? ね?? わかりやすいよね???
つまり何が言いたいのかと言うと、
ハッピーエンドで終わったものの
ココの根底にある気持ちってやっぱり
いつかお別れしなきゃ~って言うものだと思うんですよね…
それは、お互いのことを思っての考えなんでしょうけども…
のぞみもそれを知っている訳で…
だからずっと傍にいることはのぞまないで
今一緒にいられる時間を大切にしたくて
出来る限り笑顔でいたい訳です。
だけどやっぱりずっと一緒に居たくて離れたくなくて
本当は星に願いたいんです。
だけどその願いはいろんな障害があり過ぎて素直に願えないと…
ココや皆を困らせる願いは願っちゃいけないんだ我慢しなきゃって
頑張ってるんです。
器の大きなのぞみだけど、やっぱりそれは中学生というキャパには
とてもじゃないけど入りきらなくて
そしてツンと突かれるとこんな風に崩れちゃうんだと思います。
テレビではひたすら前向きで明るい子だったけど
絶対に暗い部分があると思っているので
こういう話になっちゃいましたが
結局何が言いたかったのかと言うと
ママは別に異国の人と結婚したってのぞみが幸せならいいのよって話ww
ケモケモと~って言うのがどうなのってなるけどwww
でも、自分の娘が『私この喋る鳥と鳥の国で結婚するわ!!』
って言ってきたとして素直にお嫁に出せるのかな~とも
思うんですけども;;
ま、いっかww
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